研究概要 |
本研究では日本列島の旧石器時代を次の3期に区分し,石斧の変遷と列島各地域での消長を明らかにした。 1)前期・中期旧石器時代 この時代の石斧は前期旧石器と中期旧石器でその様相を異にする。前期旧石器の石斧は縄文時代のへら状石器に酷似した形状で,小形で片刃,基部が尖る。これを石斧と呼ぶかどうか見解の分かれる所であるが,この時期は間氷期の温暖期であり,植物への依存が大きかったものと判断される。中期旧石器の石斧は両刃が多く,やや大型化し,新しくなる程定形化する。 2)後期旧石器時代前半期〜後半期 後期旧石器前半期,局部磨製石斧が完成され定形化した形で出現する。奄美大島でも当該石斧が出土しており,局部磨製石斧の起源が列島の南方に求められる可能性もでてきた。前半期に石斧の平面形は楕円形から撥型へと推移し,局部磨製石斧と打製石斧が形態的に分化してくる。北海道は前半期石器群に局部磨製石斧がないという点で特異である。後半期には研磨面の大きな局部磨製石斧が日本海沿岸〜中部高地地域に多く認められるが,他地域では石斧は石器組成から抜けてしまう。これは日本海沿岸〜中部高地地域が蛇絞岩産地であることと関係するのかもしれない。 3)後期旧石器時代終末期〜神子柴長者久保期 旧石器時代終末期の稜柱系細石刃石器群には打製石斧が認められる。本州ではこの後の削片系細石刃石器群にも神子柴長者久保系石器群にも大型の局部磨製石斧が認められ,列島の森林化に適応したことが伺われる。北海道では削片系の細石刃石器群にはほとんど石斧が伴わず,それ以後の忍路子型,広郷型細石刃石器群に石斧が認められ,森林化が本州と較べ遅れたことを伺わせる。 こうして長期間の変動をみると,石斧の消長が温暖化・森林化とが連動していることが明らかにされた。
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