中妻貝塚の1土坑から出土した約100体の人骨群は、おそらく1集落内に居住したごく短期間の血縁関係の近い人々が主体であろうと推測される。このような時間的・地理的にまとまった縄文人の形質を把握できる資料はこれまでに得られていない。その点で中妻貝塚人の形質を明らかにすることは、縄文人一般ではなく、一地域集団の形質的特徴を把握することになる。平成6年度の研究では、第一段階として、一括出土した人骨の整理・洗浄・接合・復原の作業を行った。その結果、被葬者は少なくとも106個体になることが明らかになった。年齢については、幼児から老年までランダムな割合で構成されており、また性別においては男性が多い傾向が認められた。いずれの人骨にも外傷は認められなかった。肉眼観察による形質的特徴としては、顔面形態の類似が数例の被葬者にみられるほか、通常では出現の稀な前頭縫合が老女と2体の子供の被葬者に一連してみられるなど、血縁的に近いグループが含まれることが示唆された。また全体的な傾向として、実際の年齢に比べて歯の磨耗が少ないこと、虫歯・歯槽膿漏などの歯科疾患が3割程度にみられた。平成7年度には考古学的検討として、1時期の中妻貝塚の人口の推定・ひとつの土坑に100体もの人骨が埋葬された理由あるいはそれに伴う儀礼・死因。食性などを推定するが、今回得られた所見は、そのための基礎的データとなりうる。形質については引き続き計測的・非計測的データも採取し、他の縄文人との比較をおこなうことによって、中妻貝塚人の形質的特徴を明らかにする。合わせて、被葬者の血縁関係についても、コンピュータを用いた解析をおこなうことによって、より具体的に明らかにする。
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