今年度は、本研究の対象時期である日本の古代国家形成期のうち、弥生時代前〜中期および5世紀後半における社会の動態の一面を、祭祀用具の時間的・空間的変化を分析することによって明らかにする事を試みた。 1.弥生時代前〜中期については、青銅武器形祭器の時間的・空間的変化の分析を進めることによって、日本独自の青銅武器形祭器の出現の様相が明確になった。北部九州で前期末に青銅器生産が始まるのとほぼ同時に、日本独自の形態への模索が始まり、中期前葉後半にはある程度定型化した中細形が成立した。青銅武器類が細形段階から祭器化した中国・四国・近畿地方では、武器形木製品・石製品による祭祀が、武器形青銅器による集団祭祀の直接の祖型になったが、北部九州の中心的地域における祭器化は中細形段階からであり、しかも威信材としての性格が根強く残ることから、祭器としての扱いは非中心的地域から導入され、その背後にはこの地域の文化的地盤沈下がある。 2.日本の古代国家形成過程上の大きな画期と見られる5世紀後半の社会変化の一端を明らかにすべく、5世紀代の東部九州における中国層の墳墓祭祀の変化の様相を研究した。その結果、5世紀後半における墳墓祭祀の大きな変化が、親族組織の大きな変化、先祖観念の出現と連動しているらしいことが判明した。 3.今後は分析対象としての祭器の器種を拡大するとともに、弥生時代の墳墓祭祀・集落祭祀、古墳時代の支配者層の墳墓祭祀、豪族居館・一般集落における祭祀などを総括的に分析対象とし、特に、大きな転換があったとされる弥生時代末から古墳時代初頭にかけての宗教上の変化の実態を、社会構造の変化と連動させて理解するよう研究を進める計画である。
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