今年度は、本研究の対象時期である日本の古代国家形成期のうち、弥生時代中期〜古墳時代前期とくに弥生時代から古墳時代への移行期に生起した社会変化・動態の一面を、祭祀用具の時間的・空間的変化の分析を中心に据えて明らかにする事、とくに青銅製祭器を用いた集団祭祀の出現・展開・消滅の様相を、古墳時代へとつながっていく特定階層を主体とした祭祀の展開過程との対比の中で明確にしようと試みた。 事例研究は適当な規模の単位地域内で行う必要があり、島根県出雲地域をフィールドに選定した。当該地域における青銅製祭器を用いての集団祭祀の消長を追跡するには、圧倒的個体数で展開する中細形銅剣c類に関わる基礎的事実関係を確定する必要があった。今回、型式としての実態、他型式との関係、製作時期、埋納時期、製作地、原料の由来、といった基礎的問題をほぼ解決した。当該地域では弥生IV〜V期に四隅突出形墳丘墓という大規模墳丘墓が盛行するが、そこでの特定集団ないし特定個人に対する祭祀の進展過程を跡付け、中細形銅剣祭祀との相互関係を追跡した。 8年度には、分析対象としての地域と祭器の器種をさらに拡大する必要があるとともに、弥生時代の墳墓祭祀・集落祭祀、古墳時代の支配者層の墳墓祭祀、豪族居館・一般集落における祭祀などを総括的に分析対象とし、特に、大きな転換があったとされる弥生時代末から古墳時代初頭にかけての宗教上の変化の実態を、社会全体の構造変化や、祭祀を担った集団間の政治的・文化的関係の変化と連動させて理解するよう研究を進める必要がある。国家形成期のような社会の大きな変動期における宗教の機能と変容についての比較研究の成果を早急に吸収し、本研究の総括に役立てる必要を痛感している。
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