中世の日本語文法書である『春樹顕秘抄』そして近世期にそれを増補した『春樹顕秘増抄』は、それ以前の『姉小路式』『手爾波大概抄』を承けて、そこに見られた、かかへ、とまり、おさへ、つめ、はねなどの係り受けの概念を、より広い現象の中に求め、多くの證歌をあげて説明している。その態度は、一括して旧派と称せられるように、近世期の『あゆひ抄』『詩の玉の緒』と比較して、文構造への視野は文法論としての体系性を欠き、また用例の観察も品詞論的に正確とは言えない。しかし、雑多なものを一括りするその眼は、およそ整理されて分類された品詞論的な視野が覆わなかった関係への気づきを可能にする。 本年度は主として、その問題について代表者と分担者で討議をした。その検討の中で、近世期の研究への展開の契機となるさまざまな概念の整理・一覧の必要を感じ、その整備に努めた。具体的には用語の索引、證歌(例文)の訓詁注釈である。 代表者川端善明は、以上のような視点を踏まえた論文「文、文節、語」を、また分担者内田賢徳は、上述の概要に対する各論として、論文「終止形接続の『見ゆ』をそれぞれ執筆した(いずれも未刊)。
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