本研究においては平安時代語の複文の実態について各種の計算機上のデータベースを利用する研究手法を用いて、それによって複文のあり方についての究明を行った。その結果、いくつかの成果を得たが、代表的な三個について述べる。 1 複文の構造の概略 山田文法での記述のように、いわゆる埋め込み文(有属文)と、そうでないもの(重文の類)とに区別して扱うことが重要である。前者は明確に複文であるが、後者は、かならずしも単文との差は明確ではない。 2 埋め込み文の様相 埋め込み文を主語とするような複文では、その述語にかなりの制限がある。石垣謙二は、状態性の述語のみを持つことができるという形で法則化を行ったが、より詳細に観察すると、それだけではない。現代語の「来るのが遅れる」のような文型に見られるように、非対格の自動詞もこのような位置の述語に来ることができるのであり、これらの萌芽は平安時代語にも見られることが確認された。その点で、述語の能格性についての考慮がひじょうに重要な問題となってくる。 3 形式名詞の認定 「こと」「もの」などのようないわゆる形式名詞の認定基準について、いくつかの条件を設定することができた。
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