研究概要 |
2年間にわたる研究の成果をとりまとめた研究成果報告書は,「明性寺本仮名書き『往生要集』について」と,[資料]漢文,仮名書き 対照 往生要集 (大文第一厭離穢土 第一地獄)」(研究協力者 西田直樹編)とから成る。 「明性寺本仮名書き『往生要集』について」は,『往生要集』諸本の中での仮名書き本の持つ意味(訓みの固定)と位置,系譜について明かにし,その中で書写年月日が記されている室町時代書写の明性寺本(1454年4月17日写)は,真宗中興の祖蓮如筆とされている。先に鎌倉時代の仮名書きの浄福寺木の影印,翻刻,解説を西田直樹と共編著として公刊した私は,今回は,この明性寺本の全体についての書誌と表記形式、そして言語的様相(用字と仮名遺を中心に)を考察し,鎌倉時代の浄福寺本と比較して,オ-イ,フ-ウ,エ-エ,チ-ツ,ン-ムに同語の両用表記が見られ,時代的変遷が伺えることを明かにした。このことは,往生要集訓読史を考える場合に,訓みと同時にその読み(発音)の面で,変化にも注目する必要があることを示唆しているものである,〔資料〕として、「漢文、仮名書き 対照 往生要集」を掲載したのは,2年間にわたって,平安時代から江戸時代に至る写体,版本を収集し,漢文の,本来の『往生要集』については,一字一字の漢字やその字体の校異を明かにし,仮名書きについては,その仮名遺の違いまで精密に調査して作成した「校本 漢文,仮名書き 対照 往生要集」の中から,その最初の部分である「大文第一 厭離穢土 第一地獄」の全文を掲載して,私の目指している研究対象の実態を紹介するとともに,この分野の研究の進展の基礎となるように計ったものである。
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