『宝巻』二集未刊のため宝巻研究は大幅に遅滞せざるをえなかったが、目連戯や地戯のテクストを含む『民俗曲芸叢書』の刊行は順調であり、車王府旧蔵の子弟書・鼓詞を中心とする俗曲の研究、さらには『三国志演義』の英雄関羽をめぐる俗信・伝説の調査については見るべき成果を得た。このほか別途蒐集することが出来た、潮州歌の、百三十九種およそ三百冊にものぼる線装木版本の影印本、安順地戯の、全本五種ならびに選段二種の油印本より、この方面の研究においても成果をあげることが出来た。 成果としては、作成中の「潮州歌冊研究目録」、すでに執筆を終えた「安順地戯九渓油印本解説(中文)」、関羽をめぐる俗信・伝説調査の基礎資料として作成した「関羽関係文献目録兼所蔵目録」、『大明一統志』所見の剣神の物語を精査した「剣と馬と泉の伝達一覧表」がある。 既発表の論文には以下のものがある。(一)物語のモチーフに関するもの。関羽に関する伝達・俗信・民間説話などを分析した「関羽の物語について」と、これを承け、関羽を斬首籠の下凡転生したものとみなし、この立場からさらに多くの民間説話により『三国志演義』と『西遊記』に新たな光をあてた「斬首籠の物語」。『水滸伝』を瘟神宋江の成神譚とみた「瘟神の物語-宋江の字はなぜ公明なのか-」。『三国志演義』の関羽の物語が『金瓶梅』に与えた影響などについて論じた「『金瓶梅』の構想」(五月刊行予定)。(二)俗曲文献の所蔵状況を論じたもの。「歴史語言研究所所蔵の曲本について」「中山大学図書館珍蔵“車王府曲本"編目」(「研究前後」所収。)(三)そのほか物語に関するもの。「宋代社会と物語」「『新選解学士全伝詩話』について」など。
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