ブレイクの複合芸術(詩文と絵画の複合体)において「女性予言者」の存在がどのように表象されているかを、ファクシミリ版をもちいて分析した。ブレイク研究において男性の予言者についての考察は1960年代からなされてきたが、女性の予言者についてはじゅうぶんな研究がなされてこなかった。その未開拓の部分に光をあてたのが本研究である。 ブレイクの初期から後期の作品をたどり、「女性予言者」がしだいに力を奪われていく過程をあきらかにした。ブレイク研究は従来、英文学と美学のふたつの異なった分野でべつべつに行われてきたのだが、両分野を結合させて、詩文だけでなく絵画にも緻密な分析の目をむけたのが本研究の特徴である。『アメリカ』や『ヨーロッパ』では透視力を与えられていた女性が、『四ゾア』では男性にその役割をとって代わられ、『ジェルサレム』においては真実を語る存在であるどころか、「虚偽」とすら形容されているのである。 この女性予言者像の変化を、1800年前後のブレイクの心境や環境の変化によって説明しようとこころみた。女性予言者の変化は、じつはブレイク作品にみられるほかの変化と連動している。その時期のブレイクの「世間」観の変化、彫版師としての意識の変化などを考察しながら、女性予言者像の変化を1800年前後のブレイクの変化というおおきなパースペクティヴのなかで分析したのである。 研究結果は英語論文にまとめ、現在、投稿準備中である。
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