研究概要 |
三カ年計画の初年度に当たる本年度は,研究課題の基礎資料となる『聖マ-ティン伝』作品群のうち、三つのテクストの校訂を中心に研究を進めた。まず、これまで一部を除いて未校訂であったJunius写本版(Oxford大学Bodley図書館蔵)については、在外研究期間(1992-93年)中に原写本からの転写を終えていたが、これをもとに、さらにマイクロフィルムの照合を重ね、テクスト全体の独自の新たな校訂本を完成した。これはとくに当該写本にみられる「書き加え」についての新たな独自の調査研究の成果を取り入れたもので(その一部はNotes and Queries誌上に発表した)、従来の版にいくつかの重要な修正を迫る新発見を含み、画期的な意義をもつものと考える。さらにBlickling Homilies版,Vercelli Homilies版についても、原写本のマイクロフィルムおよぶファクシミリ版に基づいてMorris,Szarmach,Scraggによる既存の刊本の見直しを行い、いくつかの転写上の誤りを正すとともに、原写本の句読法などを再現したより正確なテクストを作成につとめ、これを完成した。ただ上記の方法による今回の見直しでは、句読点の細部などについては完全を期し難い恨みがある。この問題の解決のためには、カラーマイクロフィルム、そして究極的には原写本そのものに基づく調査研究が必要であるが、これは将来の課題である。 なお、残るAElfricの二つのテクスト(Catholic Homilies版,Lives of Saints版)の見直しは閉成7年度に行う予定である。
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