昨年度までにほぼ終えていた『聖マ-ティン伝』のテクストの校訂とそのコンピュータ可読テクスト化の作業に最終的なチェックを加え、これを完了した。これによって、Junius写本版の原写本に基づく新たな校訂本を完成するとともに、その他の四テクスト(Blick-ling Homilies版、Vercelli Homilies版、AElfricのCatholic Homilies版とLives of Saints版)についても、原写本のマイクロフィルムおよびファクシミリ版にもとづいて既存の刊本の誤りを正すともに、原写本の句読法などを再現したより正確なテクストを作成した。ただ、主にマイクロフィルム、ファクシミリ版による今回の見直しでは、句読点の細部などについては完全を期し難い恨みがある。この問題の解決のためには、カラーマイクロフィルム、そして究極的には原写本そのものの実地調査が必要であるが、これは将来の課題である。 以上の基礎資料をもとにして、古英語『聖マ-ティン伝』作品群の言語の研究を行った。とくに散文体の発達と系譜の観点から、AElfricのCatholic Homilies版とBlickling Homilies版を中心に、副詞及び接続詞としてのDaの用法について考察を進め、その成果を論文‘The Use of Da in AElfrician and Non-AElfrician Lives of St Martin'としてまとめた(その一部を改訂したものはAnglia 1996年度最終号に掲載される)。 これらの成果をもとに、引き続き、広く後期古英語の説教散文全体について、その発達と系譜の問題を視座にいれて言語とテクストの研究を進める計画を準備中である。
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