平成6年度の研究計画においてWilliam Tyndale訳(1525)の新約聖書断片をコンピュータに入力しながら、語彙について問題点を検討し、次年度の新約聖書完全版(1526)のコンコーダンス作成の予備的研究をするはずであったが、当該聖書写真版本文を転写し語彙の予備調査中に、以下で述べる重要な2つの問題点を発見したので、本年度の後半をそれらの問題の解明に費やした。目標のコンコーダンスが完成すれば、さらにこれらの問題の解明に寄与するであろう。 William Tyndale訳(1526)の新約聖書を調査した結果、次ぎの重要な2点が明らかになった。(1)初期近代英語期の作品、特に翻訳作品には、外国語から借入語とその意味を説明するような本来語とが併置されて対句をなす構文が頻出するが、英語聖書はギリシア語やラテン語からの翻訳であるもにもかかわらず、この構文がきわめて少ないこと。(2)『欽定英訳聖書』(1611)に1度のみ見られる"While the world standeth"(永遠に)という表現は、実はWilliam Tyndale訳(1526)の新約聖書の6箇所に見られるこの表現の一つが残ったものであり、古英語さらにはゲルマン語にまで遡る古い表現であること。この2点については平成6年度中に2本の論文を発表したが、(1)については同構文について初期近代英語期の医学書を資料に研究しているフィンランド、トウルク大学のノリ博士を平成7年度に訪問して、最新の成果と研究方法を教示していただく。(2)についてはさらに調査中で、平成7年度日本英文学会全国大会(於筑波大学、5月27日)で口頭発表する予定である。 また阪神大震災で大阪大学豊中学舎も被災し、言語文化部研究棟内の研究室も本棚が倒壊し、資料や書籍に被害が出たが、約一ケ月で復旧し、次年度からの研究続行に支障はない。
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