平成6年度には継続研究最初の年として、William Tyndale関係の研究書と16世紀の英語聖書を所蔵する、各地の大学図書館に出掛け、そうした書籍を借りだし複写して研究資料を収集した。Tyndale著『ロマ書解説』(1526)を当時の版のファクシミリから電子テキストに変換し、語彙の調査を行った。これは同年出版のTyndale訳『新約聖書』と語彙を比較するためである。これらの作業を通して得られた新知見は、英語研究総合誌『英語青年』の論文「同意語並列構文の系譜」に発表した。本論文は伊藤正義、斎藤俊雄、寺澤芳雄、その他の英語史研究者に引用された。7年度は前年度の成果を日本英文学会第67回大会で発表した。この「『欽定英訳聖書』に見られる表現'while the world standeth'の系譜」では、欽定訳の表現がWilliam Tyndale訳『新約聖書』に直接由来し、源は古英語頭韻詩にあることを解明した。論文作成と並行して、The Oxford English Dicionary (OED)のCD-ROM版を用いて、同辞書に採録されたTyndaleの用例と見出し語のリストの作成を行った。また『英語青年』の「海外新潮」欄を担当、Tyndale研究の現状を報告した。英国の学会The Tyndale Socielyの会員になった。8年度は7年度の発表原稿を改訂した論文を出版した。科学研究費補助金で購入したBible in English on CD-ROMを使って同表現の追加調査を行い、Wesley版(1770)とNoah Webster版(1833)にも継承されていることをつきとめた。OEDに採録されたTyndaleからの引用文リストは、その試作品を完成し、本研究に使用したが、これにOEDの語義・追加説明・他の引用文にも取り込み、Tyndale語彙辞典に拡大する予定である。 本研究では当初の目的を達成し、上記論文を完成した。これに新発見事項を加え英文で書き直したものを、英国の学会The Tyndale Societyの機関誌に発表する予定である。
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