本研究は、第二言語獲得における生得的資質と経験に関する実証研究で、日本人が英語を第二言語として獲得する際に、普遍文法の原理として提案されてきた「下接の原則」「空範疇の原則」がどの程度関与するのかを検討することを目的としている。平成6年度、予備実験を仙台で行ったが、Schacter(1990)などの実験結果とは異なり、日本人英語話者が「下接の条件効果」を示すことが判明した。但し、下接の条件に違反した文を正しく退けることができない被験者は、ミニマリストプログラムの観点から次の仮設で説明することが可能である。1.移動を非循環的に行っているか、移動を派生的(derivational)でなく派生的(representational)に行っている。2.日本語の多重指定辞を英語に用いている可能性がある。3.派生の可能性が多いと、被験者の理解が困難になる。これらの結果は、平成7年5月のGenerative Approaches to Second Language Acquisition(於Queens Collge)で、"A New Look at Subjacency and ECP"と題して発表予定である。また、日本語の影響を調べるために、「かきまぜ規則」の特質を調べ、平成6年5月にFormal Approaches to Japanese Linguistics(於MIT)で共同発表し、MIT Working Papers in Linguistics♯24(1994)に"Scrambling and Relativized L-Relatedness"と題して掲載された。この論文で、日本語では、時制が束縛領域の拡張には重要な役割を果たすという知見が得られた。ミニマリストプログラムでは、従来の枠組みよりも、時制が重要な役割を果たしており、第二言語獲得においても多くの原理が時制の獲得に依存することが予想され、今後の研究で大きな進展が予想される。
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