本研究は、第二言語獲得における生得的資質と経験に関する実証研究で、日本人が英語を第二言語として獲得する際に、普遍文法の原理として提案されてきた「下接の原則」「空範疇の原則」がどの程度関与するのかを検討することを目的としている。先行研究では、日本語には可視的なwh移動規則が無いことを前提に議論がなされてきたが、最近の研究では日本語も「下接の原則効果」を示すことが明らかになったきた。これが事実なら、一部の日本人英語学習者にみられる、下接の原則効果の獲得の困難さが説明できない。この問題を解決するために行った予備実験では、日本語の「多重指定辞」を英語の獲得に用いていることが判明した。この結果は、Generative Approaches to Second Language Aoquisition(於ニューヨーク市立大学)で、“A New Look at Subjacency and ECP"と題して発表した。成果は、Proceedingsに投稿予定で現在作成中である。 また、ミニマリストプログラムでの、LF移動規則の性質を調べるために、数量詞の統語論を扱い、素性照合の観点からの分析を試みた。wh句と数量詞の相対的作用域の関係に関しては、「弱い交差現象」と関連があり、素性照合を用いると、Minimal Link Conditionで数量詞の作用域のみならず、否定表現との関連などが説明できる可能性があることを示唆した。この分析には、精緻化が必要であるが、成果の一部は、Yusa(1995)で発表された。
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