本研究は、日本人が英語を第二言語として獲得する際に、普遍文法の原理として提案されていきた「下接の原則」「空範疇の原則」がどの程度関与するのかを調べた。従来の研究では、S構造のWH移動規則を持たない日本人英語学習者が、移動規則を制限する原則の獲得が問題とされていた。しかし、最近の研究は、日本語におけるWH移動規則の存在を指摘し、またミニマリストプログラムでは、第二言語獲得研究の研究対象となっていたS構造が仮定されていない。この結果、従来の「刺激の欠如の議論」に基づく第二言語獲得における普遍文法の接近可能性の議論は、不可能となった。また「下接の原則」「空範疇の原則」は、ミニマリストプログラムでは、Minimal Link Conditon(MLC)から導かれて独立した原理とはなっていない。従来の研究は、「下接の原則効果」「空範疇の原則効果」に対して相反する結果がでていた。概略、中国語、韓国語を母語とする英語学習は、これらの現象に対する判断が悪いが、上級学習者は、英語母語話者とほぼ同じ判断が可能である。本実験では、従来の研究とは異なり、日本人初級英語学習者を用いたが、「下接の原則効果」「空範疇の原則効果」の違いを認識できことが判明した。ただし、第二言語獲得の初期段階では、WH島からの付加詞の移動を許してしまう学習者がいるが、このような日本人英語学習者は、日本語の多重指定辞構造を英語に転移しているとが分かり、これは日本人英語学習者がMLCを破っているのではなく、日本語の多重指定辞構造を英語に転移していると考えることができる。これは、第二言語獲得の初期段階は、パラメータ、機能範疇を含めて第一言語の最終段階であるという仮説を支持することになる。
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