本研究課題を遂行するための足固めとして、まずユダヤ系アメリカ人の歴史と、アメリカ史、アメリカ文学史を相互対照的に捉え直す作業から始めました。試行錯誤の末、「序章」「ユダヤ系アメリカ人の歴史--南北戦争前後まで」「文学的ユダヤ人像の形成--ロングフエロウからホ-ソーンまで」という3章仕立てで、90枚(400字詰め)の論文「アメリカ文学にみるユダヤ人像(その1)」を『法政大学教養部紀要』第92号(1995年2月刊行)に発表しました。ホ-ソーンの章を書き終えた段階で、紀要の紙幅制限を20枚も超過し、メルヴィルの長詩『クラレル』に関する論考は次号に回さざるを得なくなりました。『クラレル』に描かれたユダヤ人像は、そこに含まれた宗教的、心理的問題とともに複雑多岐を極めており、さらに検討を重ねる猶予ができたことで、実は内心ほっとしています。 上記論文の執筆で新たに得られた知見のいくつかを次に列記します。 (1)ロングフェロウ、ホイッティアー、ホームズら19世紀詩人が、ユダヤ人に示した理解と寛容は印象的だったが、それぞれキリスト教徒として、ユダヤ性の捉え方にバイアスを生じていることが分かった。 (2)ホ-ソーンの滞英日記中に激烈な反ユダヤ主義の表現を見出し、その影響が後期の小説『大理石の牧神』に及んでいることを確かめた。 (3)20世紀アメリカにおける反ユダヤ主義は、南北戦争をその主たる淵源とすることが認められた。
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