「アメリカ文学にみるユダヤ人像(その2)」の序章として、南北戦争以降大恐慌までのユダヤ系アメリカ人の歴史を辿り、とりわけ19世紀末に大挙流入したきわめて異質な東欧ユダヤ人移民が、E.ウォートンやH.アダムズらのアングロサクソン中華思想に及ぼした脅威感と危機意識を確認しました。文学的ユダヤ人像の代表としては、(1)F.ノリスの『マクティーグ』をまずとりあげ、彼の自然主義的作風が固定観念的なユダヤ人像を「自然に」吸収できるものか具体的に検討しました。(2)H.ジェイムズの『悲劇の女神』とN.ホ-ソーンの『大理石の牧神』の共通点を採りながら、アングロサクソン中心主義的な作家のユダヤ人権の本質について考えました。(3)W.キャザ-の『教授の家』では、ユダヤ人男性が創造的でなく、ただ搾取的な存在として描かれており、その憎悪の動機を作者の実生活に見出せることが分かりました。(4)M.トウェインは弱小民族に同情的な作家と信じていたのですが、ユダヤ系女流作家C.オジックによれば、「思いがけぬ反ユダヤ主義の露頭」があるそうで、改めて本研究の複雑さを痛感しました。
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