平成8年度中に刊行された小生の論考は3点で、本研究関連としては、「アメリカ文学にみるユダヤ人像(その2)」が『法政大学教養部紀要』第99号(1997年2月刊)に掲載されました。この論文は400字詰めで95枚、全5章で構成されています。 第1章は「移民の大挙移入と反ユダヤ主義」と題して、南北戦争中に噴出した反ユダヤ主義が、1880年代以降東・南欧から押し寄せた新移民との接触でいっそう激化し、西欧で流行していた北方民族優越論とも呼応して、劣等異民族によるアメリカ社会中枢の崩壊という危機意識を煽った経緯について述べました。 第2章では、その危機意識に駆られエズラ・パウンドに劣らぬ過激さでユダヤ人を憎悪したヘンリー・アダムズの精神構造を分析し、第3章では、アダムズほど過激ではないとしても、国際性にアングロサクソン的地方性を微妙に絡ませ、複雑に層状化した社会と文化を描き出す過程で、敬遠とも軽蔑ともつかぬ反ユダヤ的表現表象を用いたヘンリー・ジェイムズを考察しました。 第4章ではマーク・トウェインのユダヤ人観を、とくに彼のエッセイ「ユダヤ人に関して」から抽出しました。大文豪トウェインでさえ、「ユダヤ人は頭がよくて金持ち」という通念から脱却できず、「一斑を以て全豹を卜する」の過ちを侵したという結論になりました。第5章では、ウィラ・キャザ-の『教授の家』に登場する教授の婿でユダヤ人のルイ・マ-セラスに焦点を当て、彼を寄生的、搾取的人間として描いた作者の意図を探究しましたが、キャザ-の反ユダヤ性のどこまでが個人的でどこからが集団的なのか、画然たる判定は無理だということを悟りました。 研究期間内に完結し得なかった1920年代以降に関する論考は、(その3)として来年度の紀要に発表いたします。
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