平成7年度は、19世紀後半のフランスにおける、大衆消費社会の到来と消費文化の発展に関して、とりわけモード産業とデパートの興隆について検討した。主として対象となったゾラの作品は、《ル-ゴン=マッカール叢書》第2巻の『獲物の分け前』と第11巻の『ボヌ-ル・デ・ダム百貨店』である。 前者においては新興ブルジョワの女主人公ルネのデザイナ-として、オートクチュールの創始者ウォルト(ワ-ス)をモデルにした人物が登場するが、そこでは当時の産業化社会の政治・経済的な要請と婦人服モードに表れた文化のあり方との密接な関連が認められた。論文「第二帝政期の文化とモード」においては、両者の関連を示すとともに、女性の身体が文化を表象する変幻自在のメディアとして機能していることを確認したが、そのために女主人公が蒙る存在論的な危機については、別の論文として現在執筆中である。 一方、後者のデパート産業の興隆に関しては、オスマンのパリ都市改造とデパート産業の結びつき、消費資本主義社会と女性との関係(生産者=男性、消費者=女性の図式など)、「機械」と産業機構との同一視について、論文を作成中である。さらに本年度は、19世紀後半のフランスにおける「消費革命」前後の状況を、歴史的、社会文化史的観点から扱ったロザリンド・ウイリアムズ著『夢の世界(邦題:夢の消費革命』(工作舎、1996年3月刊)の翻訳を完成させ、上記の研究に活用した。
|