19世紀オーストリアに関する一次、二次文献の収集につとめ、また同時にテキスト・データベース化のためのハード面での整備も行った。データベース化は遅れているが、今年度の主たる課題である三月前期のオーストリア小説については、我が国ではほとんど未知といってよいチャールズ・シールズフィールドのほぼすべての作品の検討を終え、仙台クライストの会における研究会でその概略を口頭で発表し、現在シールズフィールドに関する論文を準備中である。また同じく、グリルパルツァーの作品についても、戯曲を含めほぼ全作品の検討を終了した。作品の検討という点では、三月期以後のアンツェングルーバー、エーブナ-=エッシェンバッハについてもある程度の進捗を見た。また、学内の特別経費の補助を受けた共同研究「社会と文化における中心と辺境」の研究成果として刊行予定の論文、「都市の中の島-近代オーストリア小説にみる楽園幻想--」は、近代オーストリア小説全体の見直しを図る本研究の全体の概略を描いたものでもあり、その意味で、本研究全体を完成する上での基礎的な考え方をまとめたものである。さらに、20世紀の側からオーストリア小説の問題を考えるために、ム-ジルの政治的な態度を分析した論文「1935年パリのム-ジル-作家のアイデンティティー」も、本研究のテーマと関連する成果の一つである。理論的な面では、最近のドイツにおける小説論を収集検討し、本研究が全体として、現代のドイツ小説論の欠落を埋める役割を果たすものであることを確認した。
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