本年度も、19世紀オーストリア小説に関する一次、二次文献の収集に努めた。予定通り、19世紀中葉以降の作家の作品の検討を主たる課題として研究を進め、特に、我が国ではほとんどまったく研究の行われていないマリ-・フォン・エーブナ-=エッェンバッハの作品について、論文をまとめ(「偉大なオーストリア小説(2)マリ-・フォン・エーブナ-=エッェンバッハ)、この論文は本年度末までに、公表される。ドイツ語圏に限らず、英語圏の研究の動向にも目を配り、フェミニズム文学批判など、最近の文学理論の成果を踏まえ、同時に、19世紀ヨーロッパの社会及び文化についてのさまざまな研究の成果を参照して、時代背景を分析した上でテキストの具体的な分析を行い、そこから、この女流作家の作品の持つ意味の再評価を行った。あわせて、前年度より引き続いて、シールズフィールド、グリルパルツァーさらにシュティフタ-らの作品の歴史的な位置づけと評価に関しても、従来とは異なる視点を提示した。個別の研究の成果は、たとえば、特に国内外を問わず正当な評価を十分に受けていない作家シールズフィールドに関して、来年度に向けてさらにいくつかの論文や、学会での発表のかたちで公表する予定である。こうした研究によって当初の目標通り、オーストリア小説研究の欠落を埋める作業は、さらに進展させられた。また成果の一部に関しては、ドイツ語でも発表するべく準備を進めた。こうした19世紀小説の分析は、世紀末文学の研究にも大きな寄与をなすものであることが確認された。
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