ドイツ語は中世以降、書き言葉的・規範的性格を強めてきたと考えられるが、本研究は、そのようなドイツ語の成立過程を、ジャンル別、時代別に構築したテキストコーパスに基づき、統語論に焦点をあて、従来の文文法的枠組みを越えて、テキスト言語学的・語用論的視点から記述しようとするものである。 今年度は、話し言葉を反映していると考えられる15世紀の説教集における語順を分析したが、そこには以下のような特徴が認められた。 1)語順は、現代語と比較して、かなり自由である。 2)意味的まとまりをもつ語句は長くなりすぎないように一定の長さに押さえられている。 3)複合的な入れ子構造よりも並列的な語順が多く見られる。 4)とりわけ名詞句や副詞句などの情報を担っている語句は、動詞[句]によって分節される。従って、現代語の観点からの枠外配置が頻繁に見られる。 5)語句の配列は、i)リズムを生み出すために一定の長さに語句を分節する、ii)語句の表す出来事の時間的前後関係を語句の線的前後関係に対応させる、iii)情報伝達上重要な語句をできる限り文の後に置く、などの話し言葉における語用論的原則に基づいている。 今後の課題としては、前置詞句は枠外配置されることが多いが、前置詩句という形態的特徴と上のような語用論的原則との関連を解明することが必要であろう。
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