ドイツ語は中世以降、書き言葉的・規範的性格を強めてきたと考えられるが、本研究は、そのようなドイツ語文構造の成立過程を、ジャンル別、時代別に構築したテキストコーパスに基づき、従来の文文法的枠組みを越えて、テキスト言語学的・語用論的視点から記述しようとするものである。 前年度は、話し言葉を反映していると考えられる、15世紀にオーバーザクセン・チューリンゲン地方で成立した説教集における語順を分析したが、今年度はさらに同じ観点から、ボン大学のテキスト・コーパスから同地域における15世紀から17世紀にかけて書かれたその他のジャンルのテキストを調査し、時代とテクストジャンルに関する比較を試みた。その結果、次のような新たな知見が得られた。 1)いわゆる枠外配置は比較的自由な語順の典型的な指標と考えられるが、枠外配置される語句は、現代語に時折みられるような前置詞句に限らず、名詞、形容詞、副詞も枠外配置され、また、名詞句の場合それらの格にも限定がなく、さらに、添加語と補足語の間の差異も見られない。 2)説教集などの語順の自由さは、従来、ラテン語聖書の語順の影響も考えられてきたが、検討の結果そのような可能性は少ないことが明らかとなった。 3)説教集にみられた比較的自由な語順は、話し言葉を反映していると考えられる説教集などのテキストに限られるものではなく、法律文書、娯楽文学作品などの他のテキストジャンルにも見られた。 4)このような話し言葉的、聴覚的な自由な語順は、16世紀後半以降は見られない。従って、今日のような、書き言葉的、視覚的文構造は16世紀後半に成立したと考えられる。 なお、これらの研究成果は、ドイツ、ハイデルベルク大学における第2回国際初期新高ドイツ語コロキュウム、および、カナダ、ヴァンク-ヴァーのブリティッシュ・コロンビア大学における第9回国際ドイツ語・ドイツ文学会世界大会おいて口頭発表をし、また、それらの報告集に掲載されることになっている。
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