本研究では、音節とモ-ラの2つの音韻単位及びそれに関連する諸問題を音声知覚の観点から実験音韻論及び心理言語学の手法を用いて日本語話者と外国語話者により実証的に明らかにすることを試みた。研究概要は次の6つである。 1.時間長と音質と音節の位置:日本語の音節とモ-ラの関係を時間長と音質と音節内の位置に着目し、相互に関与していることをオフライン時の観点から次の3点を明らかにした。(1)鼻音モ-ラの認識には音節内の位置と時間長の情報が関与している。(2)各鼻音を語中の尾子音に再配置すると鼻音モ-ラとして認識される可能性が高い。(3)語頭に配置された鼻音は時間長が増すと鼻音モ-ラを生起する可能性が高い。 2.オンライン時の鼻音の知覚:オンライン時に日本語話者は異なった音質の鼻音を抽象化してモ-ラとして認識する可能性が高いことをオランダ語と対比して明らかにした。 3.日英語話者とバイリンガル話者の心内辞書表示:日英語話者及びバイリンガル話者の心内辞書表示の音韻単位について、以下を明らかにした。(1)日英語のモノリンガル話者の心内辞書表示にはさまざまな単位が存在する可能性がある。(2)日英語のバイリンガル話者の心内辞書表示では、母語の音韻単位を抑制することで、英語話者と同じ単位を両言語に適用する可能性がある。 4.日系ブラジル人の知覚の音韻単位:日系ブラジル人のオンライン時における心内辞書表示とオフライン時の音声知覚の音韻単位がいづれも音節である可能性が高いことを明らかにした。 5.単語の認識とアクセント:日本語話者が単語に接近する際には、ピッチアクセントの情報を用いる可能性が高いことを明らかにした。 6.混成語とBimoraic foot:日本語の2つの単語を混成させ、新たな単語を作る際の音韻単位とbimoraic footが機能している可能性が高いことを明らかにした。
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