本年度は3回にわたって大神島へ臨地調査を行い、11名の話者について音韻体系を得るための調査を実施することができた。 大神島では神行事が非常に重要な生活習慣であり、特に神に仕える女性は肉を食べないなど日常の生活においてもいろいろな制約がある。そのなかで、写真にうつらない、言葉を録音させないということがあって、録音・ビデオ撮影に協力してくれた女性は、もう90歳を越えて、神行事に参加しなくなった方だけであった。 男性は、体系調査の他に数人の話者の録音と撮影をすることができた。 大神島方言の音韻体系の問題でもっとも大きなものは有声破裂音と無声破裂音が音韻論的に対立するかどうかということであるが、全体としては対立のある状態からない状態へ変化しつつある変化過程にあると言える。個人によって有声破裂音を多く発音する人とほとんど発音しない人があって、一概に対立の有無を述べるのは容易ではない。 また、中舌母音は平唇のウに近いということは加治工氏の報告の通りであり、舌尖母音であるとする狩俣氏の観察は適切ではない。 今回の調査では、単語全体の発音で有声の部分がまったくない語も観察され、子音だけでなく母音も含めて有声・無声の問題を検討する必要があるということが分かった。 高齢者の中には、わずかに二型アクセントの傾向を示す場合もあり、完全に無型アクセントになりきったわけではないということが明らかになった。
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