岡山県勝田郡勝田町梶並地区をフィールドどして、言語現象の構造論的研究を行った。 この研究の目的は方言学と文化人類学の共同研究により、特定の地域の言語活動を総合的に考察することにあった。 さらに、調査地区は、約10年前に両名も参加した山口大学民俗学クラブによる調査が実施されており、この基礎調査との比較検討をなすことも可能であった。 10年前の調査と比較すれば、当初予想したよりも、地区の生活の変化は少なかった。 日本の他の山村の状況を考えれば、むしろ変化があまりないと言つてよいかと思われる。 こうした中、研究代表者は主として方言学の立場から言語の論理そのものを中心に、研究分担者は文化人類学の立場から言語の社会的文化的背景を中心に調査研究した。 具体的には、研究分担者は、梶並地区の言語現象中の言語伝承である俗信(迷信)を調査した。他地区の俗信と比較しつつ、その構造を研究し、そこに隠された文化の法則、原理を明らかにすることを試みた。 一方、研究代表者は、梶並地区俗信(迷信)調査の際の臨地聞き取りの談話記録を材料に、方言の構造を、岡山県の他地区との比較、あるいは、梶並地区内での世代間の比較を行うことにより、明らかにしていこうとした。こうした方言事象の中には、滅びゆく事象ももちろんあるが、一方で、(共通語でない)新しい方言に置き変わるものもあり、方言の構造としては、消滅というよりも、変換と考える適切な現象もあった。 言語現象は、俗信にしろ、方言にしろ、その構造を変えることはなく、その構造を構成する要素が置換されることが、この共同研究により、明らかになったのではないかと思われる。
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