研究概要 |
本年度は前年度に引き続いて、夏目漱石「夢十夜」のた他言語翻訳を検討した。英訳については前年度検討したアイコ・イト-他共訳のほかにOrient/Westに掲載された(Vol.3,No.2,1961)Earl Miner/Yukio Oura共訳の'Ten Nights of Dreams'、韓国語訳としては金潤成訳「十夜の夢」(『世界短編文学全集9』、ソウル、三珍社、1971年、6-26頁)を参照した。 その結果、翻訳という概念が文化間で大きく異なることがわかった。英語圏においては翻訳作品が訳文尊重主義という減速に支えられていることはよく見て取れるが、韓国語翻訳作品においても日本の翻訳には見られない段落の再構成など訳文尊重主義の原則が働いている例を発見した。ただし、それが韓国語翻訳に一貫している減速なのか、個人によって異なる態度なのかはまだ調査の必要があると思われる。近年の近代日本文学韓国語翻訳においては訳文尊重主義の減速強化の傾向も見て取れるので、その点はさらに研究を進めたい。 また、平成7年度夏学期の東京大学大学院総合文化研究科での授業ならびに同年冬学期のソウル・韓国外国語大学校大学院での授業により、韓国語表現における段落内での「時制」の統一は日本語表現のる形・た形の段落内統一よりも強固であることが確認された。以上の知見は平成8年度に韓国外国語大学校日本研究所が発行する紀要に発表する予定である。 以上が本年度までの「日本文学の発信可能性の研究」の成果である。最初の予定よりは夏目漱石「夢十夜」という特定の作品に研究を集中したが、興味深い問題点が明らかになったと考えられる。
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