ロシアの市場経済移行のための法的メカニズムのうち、1994年は企業の私有化が一段落したので、その中間総括を中心的な研究対象とし、関連する論文をまとめた。ロシアの国有・公有企業の約7割が私有化されたといわれている(ただし私有化企業の株式の一定部分は国家が保有しているし、生産高からすれば、私有化企業の比率は40%程度ともいわれる)が、それによって旧ノメンクラトゥーラ(特権官僚層)が、新しい資本家層として登場しつつあることが明らかになった。企業の私有化は、全人民に私有化小切手を無償で配分したり、当該企業の労働集団に特典を与えながら実施されたのであるが、結果的には、新企業の経営者層に転身した旧特権官僚層が、私有化小切手を買い集めたり、労働集団内部で指導権を発揮することによって、また行政当局とのコネクションを利用しつつ、新興資本家層を形成しつつある。これによって社会主義的所有制度はほぼ最終的に崩壊したが、しかし市場経済は軌道に乗ったわけではなく、生産は低下を続けている。 企業私有化に続いて不動産(特に住宅)の私有化についても論文をまとめつつある。なお土地の私有化については進展がなく、なお国有体制が基本的に維持されている。 平成7年度は、ロシアにおける私的所有概念の再生を中心的なテーマにしたいと考えている。6年度の研究の状況から考えて、市場経済への移行、企業の私有化の前提として、-やや理論的な問題になるが-、ロシアにおける私有概念の復活過程の理論的・制度的展開を跡づけることが必要と考えたからである。従来の社会主義的所有概念が否定され、社会主義の下で否定されていた私的所有概念が肯定されるに至る過程の分析は、社会主義崩壊の根拠を探るためにも、またロシアの現状を分析するためにも、重要な研究テーマになると思う。
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