旧社会主義諸国が市場経済へ移行するに際して、どのような法的なメカニズムが形成され、それを媒介に、どのようにして体制の転換が図られていくかを考察するのが本研究の目的であった。法的なメカニズムとしては、所有制度と制約制度が主たる対象となる。後者については、それを本格的に追求するためには社会学的な実施研究が必要であることが明らかとなり、本研究では予備的な研究しかできなかった。しかし経済体制の転換(市場経済への移行)に伴う所有制度の転換(社会主義的所有制度から私的所有の容認へ)については、その論理と実現過程の全体像を明らかにすることができた。 理論の面では、社会主義体制下で否定されていた私的所有が、さまざまの理論的な屈折を経ながら承認されるに至る過程とその論理を明らかにした。当初は私的所有を裏から密輸入するような論理(例えば株式会社の所有形態を、私的所有ではなく、株主の多数性を根拠に集団的所有形態すなわち社会主義所有形態とみなす)や、過渡的な概念(例えば私的所有と区別される「市民所有」概念の導入など)が用いられたが、やがて私有が正面から承認され、それが経済効率の面からだけでなく、自由で民主主義的な体制の基礎になるという点からも正当化されるに至る。 私有概念は容認されたが、その制度的な実現過程はなお未完である。92年より企業・土地・住宅の私有化が開始されたが、その経過には紆余曲折がある。土地の私有化は一旦開始された後停滞しており(農地の6%程度私有化)、その後の保守化傾向の中で、再び私有化が禁止される可能性がある。固有住宅は約半分が私有化されたが、ホームレスを生みだすなどの弊害もでている。固有企業の私有化は、私有化小切手を使って93年〜94年に大規模に展開されたが、その後は停滞している。その達成度は諸説があって明確でないが、約3分の1程度かと推測される。
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