平成6年度の研究課題は、以下の三点であった。第一に、フランスにおける「公益性」概念の変容実態とそれに対する事後的裁量審査理論の到達点を解明すること。第二に、わが国の事後的裁量審査理論の現状について一層突っ込んだ検討・分析を加えること。第三に、1970年代後半以降飛躍的に整備されてきたフランスの公開調査手続及び環境アセスメント手続等について、この立法過程と運用実態に関する実証研究へ着手すること。以上の三点の中で、第一と第二の課題についてはその全容をほぼ把握するまでに至っており、その成果を内容とする論文原稿を執筆中である。また、第三の課題についても、立法内容をほぼ把握するまでに至っている。 以上のような本研究の到達状況の下で、特に以下の二点が新たな知見として得られた。第一に、フランスの場合、一方では、都市計画や開発事業の「公益性」を裁判審査により最大限コントロールしようとする傾向が1970年代初頭以降進展するが、他方、1980年代以降は、山岳地域や海浜地域の整備を目的とした各部門別の新たな立法措置を通して、法規範としての「公益性」の中身を立法により具体化するという動きがみられる。その結果、一面では、行政の「公益性」認定に対する司法審査の停滞とも見える状況を呈しているが、実際には判例理論の展開が「公益性」の具体的中身に関する立法化の進展を促し、その結果、逆に判例理論が独自に果たすべき役割が減少したというのが真相である。第二に、フランスでは、1970年代後半以降、特に環境保護に関する住民参加手続の立法化が急激に進展しており、その結果、この分野での「公益性」のコントロールが実体的なそれから手続的なそれへと形を変えて展開している。
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