本研究は、都市計画・国土整備行政における「公益性」の意味の転換を踏まえ、行政による「公益性」認定・判断に対する事前及び事後のコントロールに関するわが国とフランスの法制度とその運用実態の比較研究を目的に、平成6年度以来継続してきたものである。本研究により、新たに以下のような知見が得られた。 第一に、開発事業の「公益性」要件該当性についてフランスの行政判例が確立してきた「費用便益衡量」型審査手法は、法規範の適用に当たって、立法者意思若しくは法秩序全体の精神に照らしより具体化された適用基準を導き出そうとするものである、という意味では「事実の法的性格認定」作用の一環であって、こうした法規範の趣旨解釈から離れ社会的価値観から直後に適用基準を導き出そうとするものではない、という点が判明した。不確定法概念の解釈が争われる場合である限り裁判所の本来的な判断領域内である、という原則を再認識させる考え方であり、わが国の裁量審査論を考え直すに際しても参考になる。 第二に、フランスの場合、「費用便益衡量」型審査手法を用いた司法審査と土地利用計画や開発事業計画に関する住民参加手続の立法化が相前後して進展しており、両者の間には、前者の展開が後者を促進し、後者が充実してくると前者の役割は次第に縮減するという対応関係が存在することが判明した。このようなあり方は、司法と立法との健全な関係を示すモデルとして参考になる。 他方、歴史的遺産及び自然遺産の保護という具体的分野に即して「公益性」及びその認定手続の変容過程を詳びらかにすること、及び、「公益性」判定を素材に行為規範としての適法性と合目的性の関係を具体的に把握するということが、今後の課題として残されたので、引き続きこれらの課題に関する研究を継続する予定である。
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