「本研究は、行政手続法の制定が行政不服申立制度にどのような影響をもたらすことになるのか、を考察することにある。この場合、行政行為の理由の提示を検討の素材として、わが国とドイツとの比較検討を行う」ことを、研究目的に掲げていた。これに沿って、ドイツの異議審査請求手続について検討し、その成果の一斑として、(1)「ドイツにおける異議審査請求手続の一側面」をまとめ(山口経済学雑誌45巻3・4号掲載予定、96年7月)、理由の提示関係では、(2)「ドイツ連邦行政裁判所の裁判例にみる理由の提示と理由の補正」(行政手続法制定以前)を原稿化として提出した(95年8月提出、阿部照哉他編『現代における国家諸制度と人権(仮称)』所収(法律文化社)、95年刊行予定であったが未刊行)。(2)の続編(行政手続法制定以降)は、上記の事情から書き直し作業中である(全体について官僚制研究会(95年8月、名古屋大学)にて報告)。(1)によれば、ドイツでは、行政手続である異議審査請求手続が司法手続法たる行政裁判所法で規律されることから、異議審査請求手続において行政手続法と行政裁判所法との交錯が生じ、それが解釈上の困難を引き起こしていることを、この請求手続への適用法規の問題をとおして明らかにし、結論としては、異議審査請求手続に対する行政法の影響は未解明の部分もあるが、必ずしも大きくない。また、(2)および(3)の続編では、行政手続法制定が従来の理由付記制度にどのように影響したかを、連邦行政裁判所判例分析から検討したが、理由の補正を許容することで行政手続法の理由提示原則の意義の相対化が顕著である。 ドイツの意義審査請求手続は、事前手続と事後手続の類型で捉えるには適合的でない側面を有し、わが国と単純に比較できないが、総体としては、行政手続法の「事前的」行政規制の意義を希薄化する役割を果たしているが、今後の検討課題としたい。
|