本研究は、国際法上の主税免除原則の形成・発展において主要な役割を演じた公船(政府船舶)に関する欧米の国内判例を19世紀に遡って収集し、それらを分析した。分析にあたっては、軍艦とそれ以外の公船とに分けて検討した。その結果、前者については、19世紀の初期の段階から外国の裁判権からの免除が一貫して認められてきたことが明らかとなったが、後者については、諸国の裁判例に重要な変化があったことが認められる。すなわち、19世紀後半から今世紀前半までは、当該公船の使用目的の如何を問わず免除を認めるとする、いわば絶対的免除の立場が優勢であったが、第2次対戦後は、政府所有の公船でも、それが商業目的に使用されるときは裁判権を免除しないとの立場に各国の判例が大きく転換していったのである。つまり政府船舶を二種類のカテゴリーに分け、国家の公的役務に従事する船舶には軍艦と同様の免除を認め、他方、通商活動に従事する船舶にはこれを認めないとするのである。その背景には、通商活動における外国政府の契約違反等に対して、自国の私人や企業に司法的救済の途を開こうとするねらいがある。そして、このような公船をめぐる判例の変化が主権免除の一般原則における、いわゆる絶対免除主義から制限免除主義への移行を形成した大きな要因となったことが認められる。少なくとも、これらの判例を契機に、その後、判例の立場を是認する条約や国内立法がつくられているのである。ただ、公船に関する裁判例が主税免除の一般原則の発展に及ぼした具体的影響の検証については、なお詰めるべき作業が残された。その点は早急に処理したいと考えている。
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