ここ十数年国際法は日本に大きな影響を与えた。日本は条約の批准にはきわめて慎重であるが、いったん条約の批准に踏み切ったときには、条約が国内で直接適用され法律に優位する制度のために、国際的義務に合わせて国内法を改正せざるをえず、実際にこのようにして重要な法改正がなされてきた。最も大きな変化は人権、特に在留外国人と女性の人権の分野で起きた。そのほか、精神障害者の処遇においても重要な改善がみられた。この分野における改善は新条約の批准ではなく、国連の人権監視機構を通じてもたらされたものである。同様の手法は被疑者の処遇の改善のためにも用いられている。ただし、この分野では事態はそれほど変わっていない。人権と並んで貿易の分野においても国際法は大きな影響をもたらしている。ここ十年余りの間に日本はガット紛争処理手続において何度となく被告の側に立たされ、ガットによってガット違反を認定された。その結果、日本との貿易条件は大いに改善された。 日本の裁判所は、当事者が日本の法令は条約や慣習国際法に抵触すると主張するときは、国内法を無効と断定することは躊躇する傾向がある。国際法に基づく主張は、裁判で勝利する法的武器というより、国内の法令の改正を訴える運動に正統性を与える政治的手段としてより有効に働く。 国際法が日本に大きな影響を与えたのは、日本においては国際法(条約及び慣習国際法)が法的効力をもち、法律に優位する地位を与えられているからである。本研究は、国際法と日本法の関係を包括的に考察し、国際法が日本法が与えた影響を実証的に分析するものである。
|