(1)相続人の意思を実現する相続制度としては、遺言の制度があり、それを制約する制度として遺留分の制度がある。遺言制度のうち、直截に相続人の意思を権利の移転の次元で実現する制度は、遺贈であり、具体的な権利の移転を行なうものが特定遺贈である。この特定遺贈については、権利の特性に応じて、どのような権利移転の法的性格を有するかを明らかにする必要性が高いことが示された。具体的には、金銭債権の特定遺贈が行なわれた場合の法律関係、特に債権の行使、および、債務者からの履行の態様に関して、未解明の問題があり、一方では、銀行預金のような一般的な金銭債権の取り扱いについて検討を行ない、他方では、債権の帰属と移転に関する一般法との関係からの理論的考察を行なった。その結果、遺言執行者のいる場合かどうかで、問題解決が異なる可能性があることが明らかになった。 (2)相続させる旨の遺言については、分割方法を指定する遺言または相続分を定める遺言との関係を明確にする要請があることが示された。具体的には、分割方法を指定する遺言および相続分を定める遺言について、これまでの紛争解決例および議論を素材にして研究を行なった。その結果、遺贈のような権利移転の効果を生じさせる遺言と、直接の権利移転を生じさせない遺言とに分けて考察すべきという指針が得られた。
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