相続財産の承継の内容が、被相続人に意思にもとづいて決定される局面は、多様である。共同相続を原則とする日本の相続法制度においては、(1)誰が承継するか、(2)どのくらいの経済的価値を承継するかのほかに、(3)どの財産を誰が承継するかという点に、被相続人の意思にもとづく決定が行なわれる場合がある。これらの問題は併存することもあるが、法定相続人のみが法定相続分にしたがって相続する場合には、(3)の問題が単独で生ずる。 被相続人の意思にもとづいて、どの財産を誰が承継するかが、決定される場合は、その財産について、共同相続財産の分割というプロセスを省略することが可能となる。いわゆる「相続させる旨の遺言」問題が提起した問題は、共同相続という抽象的な規範と、共同相続財産の分割という具体的なプロセスとの関係は、どのようなものであるかということである。共同相続財産の分割というプロセスは、共同相続に含まれる相続人間の公平を確保することを趣旨とするが、他の代替的な方法によっても、その趣旨が実現するのかどうか、それに充分代替することができる他の方法はないのかが、問題となることになる。 財産の評価方法は、一義的ではない。また、同一の財産について、各相続人にとっての主観的な価値も、異なる。そうすると、共同相続財産の分割というプロセスの公平性自体も相対化される余地があり、同時に、被相続人に意思にもとづく決定についても、公平性を確保するサブシステムを組み込むことによって、相続法制度のなかに、整合的に位置づけることが可能となる。
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