賃料増額請求権について、ドイツ法との比較法的研究を行った。ドイツ法では、借家に関して、事業用借家と居住用借家とを明確に区別して取り扱い、事業用借家では賃貸人に契約を更新するか否かの自由を認めつつ、住居用借家では賃貸人の更新の自由を制限するという方法を採っている。我が国で、事業用借家と居住用借地を区別することなく、更新の自由を制限しているのと大きく異なっていると言える。ドイツ法においても、居住用借家では、更新の自由を制限すると共に、賃貸人に賃料増額請求権が認められているが、この内容は我が国の場合と若干異なる。すなわち、賃貸人は前回の賃料増額から1年を経過しないと増額請求ができないとされており、また、賃料の増額は、同一種類・規模・設備の住居の過去3年間の賃料水準を超えない賃料に制限され、かつ、増額の幅は3年前の賃料の30%を超えてはならないという制限がある。このように、賃料増額請求の要件が具体的に決められているため、賃料増額請求をめぐるトラブルは我が国に比べて少なくなると思われる。また、当事者の特約で、賃料をスライドすることも認められている。すなわち、10年以内の期間について約定し、上昇の間隔は1年以上とし、上昇の幅は金銭の絶対額で示し、パーセントで表示してはならず、書面で特約することになっている。我が国では、スライド条項の有効性につき、判例が分かれているが、このような厳格な要件にすれば、有効とすることに疑義は生じないであろう。我が国の場合、賃料増額請求権に関しては、一般条項しかなく、トラブルが絶えないのであるが、賃貸人の更新の自由を制限し、その見返りとして賃料増額請求権を認める以上、この請求権の要件をもっと明確にすべきである。事業用借家には更新の自由が認められ、そのことで特に不都合なことがあるとの見解はない。我が国でも、事業用借家につき、自由な賃料交渉を認めるべきである。
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