1.平成6年度では、主にアメリカ合衆国の会社補償制度と会社役員賠償責任保険について研究した。そこでは、模範事業会社法と各州の会社法における会社補償の規定について詳細に比較検討した。この検討作業は、会社補償規定を持たない日本商法にとって極めて参考になるものである。また、会社補償制度ができた経緯についても、判例を含めて学説の比較検討を行った。 2.つぎに、アメリカ合衆国における会社役員賠償責任保険は、一時期危機はあったものの、近年にはすでにその会社において定着しており、今後は同保険の約款解釈の問題が主たる議論の対象になると思われる。そこで、会社役員賠償責任保険の約款条項に関してとくに重要と思われる損害の概念と免責条項等についての裁判例を検討した。この検討は、日本における同保険の約款解釈にも応用できるもの思われる。 3.当初の計画では、アメリカ合衆国の会社補償制度を詳細に検討することにあり、その目的はほぼ達成できたものと確信している。また、アメリカ合衆国における会社役員賠償責任保険の約款解釈についても、上述のように、いくつかの解釈上の問題点が発生し、裁判で争われているのである。このことは、日本の約款がアメリカ合衆国のそれを参考にして作成されたことをあわせて考慮するならば、遅かれ早かれ日本においても同様の解釈問題が発生することは必至である。したがって、その議論についての研究は、今後の日本における同保険の約款解釈の際にも大いに参考になるにちがいない。その意味では、平成6年度の本研究は、アメリカ合衆国の約款解釈の分析にとどまらず、日本の約款解釈の紛争防止にも役立つものと評価できるのである。
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