1.現在、日本の会社役員賠償責任保険について、会社がその保険料を支払うことが許されるかという問題がある。この議論の本質は、会社役員には商法等で厳格な責任が課せられているにもかかわらず、保険によって責任を転嫁してよいのか、またそもそも会社役員である取締役の責任は免除できるのかということである。また、取締役の責任免除を制限している日本商法266条5項との関係において、会社役員賠償責任保険の有効性が問題となる。そこで、取締役の責任免除に関する諸問題を比較法的にこれまで検討してきた。 従来の日本では、この問題についての研究は、ほとんどアメリカ合衆国との比較でなされてきた。しかし、商法266条5項を考慮するならば、取締役に対する責任免除を原則として禁止していた英国における1989年会社法改正までの議論も大いに参考になるのである。 本年度は、主に英国における1989年会社法改正に至るまでの経緯について、1985年会社法310条の制定趣旨にまでさかのぼって、いかなる理由により会社役員である取締役に民事上の損害賠償責任を負わせるのかについて、1925年のグリーン委員会の報告書の分析・検討を行い、併せて近時の310条に関する裁判例の詳細な検討を行った。それによると、英国における取締役の責任免除は、株主総会や定款による承認および提訴の制限によるものがあり、この定款による責任免除を制限する1985年会社法との関係おいて、会社役員賠償責任保険の有効性が大きな問題となったのである。その議論の結果、結局1989年に会社法を改正し、会社が会社役員賠償責任保険を購入しその保険料を支払うことができる旨を明定したのである。最終の平成8年度は、これまでのアメリカ合衆国と英国の議論を参酌して、日本における問題点を検討する予定である。
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