本年度は、日本における会社役員賠償責任保険についての諸問題を検討した。会社役員賠償責任保険については、会社がその保険料を支払うことが許されるか、という問題が主に議論されている。この議論の本質は、会社役員には商法等で厳格な責任が課せられているにもかかわらず、保険によってその責任を保険会社に転嫁してよいのか、またそもそも会社役員である取締役の責任は免除できるのか、という問題である。また、取締役の責任免除を制限している商法266条5項との関係において、どのように調和させることができるのかという観点から、取締役の責任免除に関する諸問題についても検討を行った。 また、平成8年度は最終年度であるから、平成6年度からこれまでに行ってきたアメリカ合衆国および英国についての比較法的検討の研究成果を活用して、日本において従来からなされてきた議論について再検討を行った。 それによると、平成6年度のアメリカ合衆国における会社補償制度と会社役員賠償責任保の検討から、上記の問題点については、各州がそれぞれ会社による保険契約の締結を認めることを明らかにしている点が注目される。また、平成7年度において、英国の1985年会社法改正に至るまでの議論を比較検討した結果、英国でも日本と同様の問題があり、会社による保険契約の締結を立法的に解決したのである。 以上の比較法的検討から、日本における取締役の責任免除、なかんずく会社役員賠償責任保険に関して立法論を含めて改善すべき問題点を再検討した結果、早急に会社が保険契約を締結できる旨を商法等において明記すべきであるという結論に到達した。 また、現在日本で使用されている会社役員賠償責任保険の約款についても、少なからず改善すべき問題点があるので、アメリカ合衆国における約款の問題点についての検討を参考にしながら、日本の約款上の問題点を検討した。
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