平成6年度においては、主として次の研究作業に従事した。第一に、比較法・比較制度上の研究として、フランスの年次有給休暇およびその他の各種の休暇制度の動向を把握し、また制度の詳細な問題把握に努めるために、重要な裁判例の収集・分析に努めた。第二に、わが国において特に労働時間の短縮や休暇の普及の遅れが目だつ分野の一つである建設産業について、そこに生じている固有の問題についてヒアリング調査を行う機会を得た。 これらの結果として、要約、次の点を明らかにすることができた。 第一に、比較法・比較制度的観点からすると、休暇制度の先進的状況にあるフランス等のヨーロッパ諸国では、同制度は単に労働時間または余暇制度の一環としてだけでなく、多様な労働政策の中に位置づけられている点に注目される。すなわち、(1)休暇は雇用制度の一環として位置づけられており、雇用創出を目的とする休暇制度(起業休暇、職業転換や職業訓練のための休暇など)の発展がみられる。(2)家族の介護や地域での社会活動を保障する休暇の発達により、休暇が労働者福祉の主要な政策として位置づけられている。 第二に、わが国の休暇実態については、業種別にみる休暇の普及の遅れが顕著であり(この点は、ヨーロッパの諸外国に見られない特色である)、各業種の固有の問題把握が必要である。たとえば建設業の受注産業あるいは重層下請け産業としての特性が、休暇の普及や利用に障害となっており、固有の問題解決の試みが必要となる。他方、この問題とは別に、国の政策のレベルでは、民間部門において介護休業の法制化に向けての動きが急ピッチであり、この介護休業制度の内容把握や動向については、更なる検討課題として付け加えたい。
|