本研究では、「休暇」制度の国際比較や実態調査の手法により、労働契約上の理論的位置づけを考察し、もってその運用・取得を円滑にするための理論の形成を試みた。 比較法研究においては、フランスにおける年次有給休暇、病気休業、育児休業、介護休業制度等について、制度の枠組みと利用実態を明らかにした。また、実態調査においては、福岡県における業種や規模を異にする9つの社会の人事担当者に対して、同様の休暇制度について聞き取り調査をし、各社の休暇制度の運用における、実態、成果、困難、課題を明らかにした。これらにより結論として導きえた点を、次の3点に要約しておこう。 第1に、「休暇」を本研究の角度でとらえると、職業生活において休暇の存在は必然的であり、休暇なくして職業生活、したがって雇用の維持もありえないことがわかる。いいかえると、休暇は、職業生活における単なる「余りの時間」ではなく、職業生活と家庭生活との接点において、両者の関係を調整する役割を担っている。 第2に、したがって、雇用のあり方が、休暇のあり方にも大きな影響を与える。たとえば、雇用の側面で終身雇用制の終焉が提唱され、あるいは女子の雇用進出が顕著となった今日に、休暇(特に、育児休業や介護休業)が注目されるようになったことは、決して偶然ではない。休暇は、雇用や労働の問題を写し取る「鏡」といいうるであろう。 第3に、これの点において、休暇の各制度は共通の機能を果たしており、しかも各制度は相互に補完・関連して運用することによって、制度の有効利用が図られている。近時の雇用のあり方や生き方の選択の多様化こそが、休暇・休業の制度や運用においても、新しい問題を惹起し、新たな方向を導いていることは明らかである。このことは、わが国の労働関係法の中に、「休暇」労働法という新しい課題を浮き彫りにするものといえよう。
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