研究概要 |
触法精神障害者の処遇についてはこれまで様々な議論が行われてきた。しかしその実態についての研究は症例報告等にとどまることが多く、その全体の概観さえも不明であった。わが国では触法精神障害者について法務省により毎年、全国規模の調査が行われている。この調査を基礎にして、再犯に関するその他の資料を収集し、分析することにより、触法精神障害者の犯罪及び処遇に関する知見をえた。 今回我々はこの全例について1981年から1991年までの11年間における再犯に関する追跡調査を行い4つの分析を行った。 第一には、946人全てを対象として、概観をえるための解析を行った。この時点で明らかになったことは、再犯者にも様々なサブグループが存在し、精神分裂病者の殺人事件はむしろ再犯全体の中では異質な要因として影響を及ぼしているという事である。次にこれら487件の内容についての概要を示した。病名については精神病質、覚醒剤中毒とされた者の再犯率が最も高くそれぞれ100%、66%であり、精神分裂病や躁病では15%,11%と低率である。しかし精神分裂病の再犯事件には凶悪犯罪が比較的多く含まれている。更に殺人と放火については、一般犯罪者を対照群として比較を行っている。三番目に207例のうち、再犯回数が最も多かった2例について事例検討を行った。この2例は精神分裂病であり、さらにいくつかの共通の特徴を持っていた。最後に特に処遇上の問題が大きいと考えられる精神分裂病の殺人の事例に対象を限ってロジスティックモデルを使った解析を行った。現在我々は1994年における触法精神障害者のデータを入手し、更に分析中である。本研究の内容に関してはさらに分析手法を洗練させる必要もあり、これらをあわせて研究を進める予定である。
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