我が国における政策研究については、近年、急速に進展しつつあると評価できるが、その基礎となる政策過程の実態に関する基礎的資料は、必ずしも学術研究の観点から整備されているとはいえないところがある。また政策研究それ自体としては優れていても、実務家がそれを参考にするにはあまりに思弁的である業績も多く、実務と学術研究との交流が十分には起こっていないようにも見受けられる。 このような現状から、政策研究の基礎的な資料蓄積のための方法を探るとともに、政策研究の焦点のひとつである事例研究のあり方を研究し、また研究成果の公表・教育法としての「ケースメソッド」の我が国への導入の可能性を探ることは、学術的・実務的要請に応えることにつながると考えられる。そこで事例研究に関する研究・教育体制確立に向けた試掘作業として、本研究が始められた。 研究成果としては、政策事例研究の方法論に関する小論を作成し、研究会参加者へ配布して議論の素材としたほか、研究メンバーがそれぞれ、人物論に重点を置いた事例研究として最近の首相に関する論文や、具体的な政策展開の例として地域開発の事例を執筆して発表したほか、日本における議院内閣制の問題を、事例を用いて展開し、教育用素材としたときの記録がある。 このような、文章になった成果よりはむしろ、実績として研究会メンバーが設立に参加した、政策研究大学院大学においては、事例研究を重視する方向が打ち出されたことの方が意義が大きい。事例研究の興隆のために、全国共同利用施設である政策研究プロジェクトセンターのリサーチ・ユニットとして「政策情報プロジェクト」が発足し、伊藤隆教授を研究主任として、オーラルヒストリーを用いて、事例研究の素材を得るとともに、事例研究の方法論的な探求を行うために、本研究メンバーの飯尾が加わることとなった。また教育面でも、御厨貴教授による「歴史の活用」といった事例研究を中心に据えた講義が予定されるほか、本研究メンバーの辻が「地方自治事例研究」という講義を埼玉大学において始め、政策研究大学院大学に引き継ぐことが予定されているなど、ようやく成果が現れ始めている。
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