平成六年度は「多文化主義」国であるオーストラリア、カナダ、EU諸国の実状をできるだけフォローし、論争点は何か、「多文化主義」を支える条件は何か、「多文化主義」にとっての障害は何か、誰が「多文化主義」を支持し誰が支持しないか、どういう条件の下で「多文化主義」はうまく機能するかなどについて検討してきた。その結果として得られた知見は、以下のようなものである。「多文化主義」一般について論議することは困難であり、国家類型の種類によって、「多文化主義」を受け入れやすいケースとそうでないケースを区別すべきである。移民国と非移民国、多極共存型民主主義国などが、着眼点の一部である。「多文化主義」という概念は、国家の政策、社会運動の主張などさまざまなレベルで使用される。また国家の政策の場合も、「多文化主義」それ自体がカナダのように目的として追求される場合と、オーストラリアのように新たな環境のなかでの生き残りのための手段として実施される場合とがある。また、どこまでが「多文化主義」に属し、どこからは「多文化主義」ではないかという問題が存在する。その場合の一つの基準は、公的空間と私的空間との区別を認め「多文化主義」を私的空間の内部に限るか、それとも公的空間と私的空間との区別を認めないかという点にある。この点で、M・ゴ-ドンの「リベラル多元主義」と「コ-ポレイト多元主義」の区別は示唆的であった。もう一つの基準は、文化集団が地域性(範域性)をもつか否かという点である。また、「多文化主義」という枠をはみ出す存在は何かという点も重要である。その点で、カナダのケベック州、インディアンなどの先住民、イスラムのケースは、「多文化主義」にとって興味深い事例を提供している。次年度は、事例研究からの知見を生かして、「多文化主義」一般について、また「多文化主義」の日本への適用について検討したい。
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