平成6年度の研究を受ける形で、平成7年度は「多文化主義」一般の論争点を整理することに努めた。またそのために、文献研究、インタビューなどを追加的に行ない、日本の現実との関連を知るために、若干のフィールドワークも行なった。そこで得られた知見は、以下のようなものである。(1)「多文化主義」といっても、各「文化」間の距離によって文化間の関係のあり方はさまざまであり、文化の共存がはかられる場合と、そうでない場合とがある。後者は、むしろ「文明」間関係とうべきであり、S.P.ハンチントンの「文明の衝突」論とつながる。西欧諸国とイスラムとの関係はその一例である。(2)「多文化主義」が該当しやすいのは、多民族と内包する先進国であり、発展途上国の場合は、むしろ国家建設と民族形成が至上命令であり、「多文化主義」はとりにくい。(3)「多文化主義」はあくまでもナショナルな枠組みを前提にしており、「多文化主義」と「ナショナリズム」は矛盾しない。R.タカキの多文化主義論は、マイノリティや移民の活動がアメリカ建国に貢献した点を強調する。これとは別にEUやASEANなどの文脈では、多国間にまたがる「多文化主義」、すなわち「トランスナショナルな多文化主義」が考えられる。(4)「多文化主義」は、広範囲の活動分野をもち、多言語をあやつるエリートにとっては望ましいが、十分な専門知識を欠き、母国語のみしか知らない一般の民衆にとっては厳しいものである。(5)「多文化主義」は地域統合との関連で語られることが多い。EUはその一例である。(6)「多文化主義」一般について議論するよりも、むしろ少数民族、移民、難民、先進民といった形で異なったマイノリティごとに、その文化的権利を検討していく方が問題解決に役立つと思われる。
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