近代自然法学の国家論の中心をなす社会契約説は、市民政府の起源と忠誠義務の根拠を、契約・合意・同意などから説明した。この社会契約説を批判したのが、デヴィッド・ヒュームとアダム・スミスである。本研究は、ヒュームが、市民政府の起源について原始契約の存在を認めた上で、忠誠義務の根拠を契約に求める見解を批判して利害と慣習から説明したことを示した。さらにスミスが、ヒューム理論を継承発展させた「権威の原理」と「功利の原理」の理論によって市民政府の起源と服従の根拠を説明し、社会契約説への理論的批判を完結させたことを明らかにした。日本では、近年自然法思想およびヒューム、スミスらの思想はしばしば「市民社会論」と呼ばれてきた。本研究は、日本における市民社会論の歴史についても考察した。 近代自然法学および重商主義の経済理論を特徴づけるのは、貨幣数量説である。ヒューは、貨幣数量説を国際的金移動の理論と結合して、重商主義の貿易規制策を批判する一方、連続影響説より貨幣数量が産出量水準にも影響を及ぼすことを認めた。本研究は、アダム・スミスが、『法学講義』で貨幣数量説と異なる銀価決定論を述べており、『国富論』では、銀価の変動を歴史的に考察する一方で、ステュアートの理論的影響のもとに流通必要量説を主張し、貨幣数量説と異なる見解を展開したことなどを明らかにした。
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