本年度は『経済学における正当と異端』(編著)を完成させることからスタートした。編者としての仕事のほか、その中でヴィクセル・コネクションとの関連でケインズ理論をとらえる内容の論稿を執筆した。また『ケインズ全集』第27巻「雇用と商品」の翻訳作業にかなりの時間をさくことになった。この作業に平行して、晩年のケインズの政策観を検討することができ、国際主義とナショナリズム、国際緩衝在庫案をめぐり興味深い検討を行うことができた。秋には経済学史学会での「フォーラム:イギリスの経済的衰退」で発表を行ったが、その準備研究会を通じて「イギリスの経済的衰退」観を広い視点からとらえなおすことができたことも、大きな収穫であった。しかし何よりも本年度に最も力を注いだのは、年来の計画であった『市場社会の探求-先駆者イギリスの苦闘』(仮題)の執筆を大幅に進展させたことであろう。4部22章(第1部「イギリスの世界史的位置」、第2部「ブルームズベリ-・グループ群像」、第3部「市場社会観の相剋」、第4部「戦後体制の立案家:ケインズ」)の構成を考えているが、8割ほどの完成度に達することができた。中でも第3部ではケインズと同時代人(シュムペーター、ハイエク、ミュルダール、ポランニ-等)の市場社会観を検討しており、同書の主題を構成している。 当面は、同書の完成に力を注ぐ予定である。その後、もう1つの主要な目標であった、「ケインズ関連資料」の検討を通じてこれまでの筆者の「ケインズの理論的編成過程」研究を検証・修正するという仕事に戻りたいと考えている。
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