本研究の目的は、「ケインズ革命」の実態を、一次資料、ならびに最近の関連諸研究の検討を通じて理論史的ならびに政策論史視座から解明することにある(重点は理論史におかれている)。本研究は3年にわたって実施されたものであり、本年度はその最終年度にあたっている。『戦後世界の形成-雇用と商品』(ケインズ全集第27巻。東洋経済新報社)の翻訳の完成に努めた(9月に刊行された)後は、専ら「研究成果報告書」の執筆に時間をさいてきた。本年の5月に完成の予定であるが、その概要は次の通りである。 (1)「研究成果報告書」はA Study of Keynes's Economics-from A Treatise on Money to The General Theoryというタイトルのもと、全17章、4つの補章で構成された(ほかに序章と参考文献が加わる)、80桁×35行換算で750ページの英文報告である。 (2)第1章〜第3章ではケインズが活躍した時代の世界史的状況、ならびにケインズが活動を始める直前の経済学の状況(新古典派ならびに貨幣的経済学としての「ヴィクセル・コネクション」)を論じている。これらは、ケインズを広い歴史的、理論史的文脈のなかでとらえるための試みである。第4章〜第5章では、それぞれ、ケインズの理論家および政策立案家(もしくは政策批判者)としての側面、ならびにケインズの「市場社会観」を取り上げている。これらもケインズをより広い視座のなかでとらえようとする試みである。 (3)第6章〜第17章では、本研究の中核をなす部分であり、「ケインズ革命」の特質と実態を、一次資料(『ケインズ全集』、「ケインズ文書集」、ケインズの講義資料等)ならびに主要著作の検討を通じて解明することをめざしている。筆者は、『ケインズ研究』(1987年)以来、『貨幣論』から『一般理論』にかけてのケインズの他論的変遷過程について、利潤と生産量の関係をめぐるケインズの扱いにとくに注目してきた。本研究に特徴があるとすれば、この点をその後発掘ないしは公開された資料に基づいてより徹底的に検討していくことによって、「ケインズ革命」の実態を明らかにしようとした点に求められるであろう。
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